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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)223号 判決 1996年3月27日

東京都東村山市廻田町3丁目19番13号

原告

蒔田義夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

鈴木誠

園田敏雄

幸長保次郎

伊藤三男

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第21358号事件について、平成5年11月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年2月18日、名称を「液化石油ガス供給装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願をしたが、平成3年10月8日に拒絶査定を受けたので、同年11月5日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第21358号事件として審理したうえ、平成5年11月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月4日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置の調整器2の減圧弁2bを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造の液化石油ガス供給装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、実願昭58-46173号(実開昭59-151435号)のマイクロフィルム(昭和59年10月11日発行、以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用例考案」という。)に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、引用例の記載事項並びに本願考案と引用例考案との一致点及び相違点の各認定は認め、判断及び結論は争う。

審決は、本願考案の本質を誤解して、相違点についての判断を誤ったため、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  本願考案は、プロパン用液化石油ガス供給装置(以下「液化石油ガス供給装置」という。)の欠陥の解明とその解明に基づいて考案された欠陥の解決法に関するものであり、次の2つの重要な限定と構造によって構成されている。

その第1は、本願考案の要旨の前半の「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置の」に示されている用途の限定であり、本願考案の中心的構成要件である。

第2は、その要旨の後半の「調整器2の減圧弁2bを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造」に示されている構造であり、本願考案の重要な構成要件である。

したがって、本願考案の審査・審判に際しては、引用例に、本願考案の中心的構成要件である上記第1の限定及びその重要な構成要件である上記第2の構造が記載されているかどうかが、審理の対象とならなければならない。

ところが、審決では、これらが審理の対象になっておらず、かつ、引用例には、本願考案の上記構成要件の記載がなく、審決は、この点において誤っている。

2  従来の液化石油ガス供給装置は、液化されたプロパンを充填したガスボンベ、減圧弁と安全弁を内蔵した調整器、メーター、ガス栓(元栓)、ガス燃焼器などの順で連結構成されている。減圧弁を境に、ガスボンベ側が高圧側、ガス栓側が低圧側である。

この調整器内の減圧弁が経年劣化して、ガス使用停止中に、閉じられている減圧弁から高圧ガスが漏洩して、低圧側のガス圧が設定以上に高くなる場合がある。低圧側のガス圧が設定以上に高くなると、屋内のガス栓などからガスが漏洩する危険があるので、安全対策として調整器内に安全弁を設け、安全弁が上方に開いて余分なガスを大気中に放散し、低圧側のガス圧を設定以下に保つようになっている。

しかし、このような構造及び安全弁が正常に機能して安全を保つには、ガス栓や継目などの気密を安全弁の作動ガス圧(気密)よりできるだけ高くしなければならない。

ところが、従来の安全弁がガスを放散するようになる作動ガス圧は水柱560~840mm(気密でもある)とされているのに対し、ガス栓などの気密は水柱420mm以上になっていて高低が逆になっている。

そのために、従来の液化石油ガス供給装置は、劣化した減圧弁からガスが漏洩して低圧側のガス圧が高くなった場合、ガスは安全弁から放散しないで、気密が低いガス栓などから漏洩し、従来の多くのガス事故の原因となるという欠陥を有している。

また、プロパンガスは、空気より重いため、安全弁から放散されたガスが下水溝や盆地に滞留したり、風などの条件によって建物の床下に侵入したりして、引火爆発することがある。

さらに、事故にならない場合であっても、安全弁から大量のガスが放散され、無駄になり、不経済である。

3  本願考案は、前記の複数の課題を解決する方法として、従来の液化石油ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、低圧側にガス感圧装置を設け、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に連動するように高圧ガス遮断弁と感圧装置とを連結した構造にした。

このような構造にすると、ガス使用停止中に減圧弁から高圧ガスが漏洩して低圧側のガス圧が設定以上に高くなると、そのガス圧が感圧装置から高圧ガス遮断弁に伝えられ、高圧側で高圧ガスが遮断される。

したがって、ガス栓などからガスが漏洩したり、安全弁からガスが放散することもないので、上記の欠陥は全部解決される。

4  課題の原因である従来の液化石油ガス供給装置の欠陥が解明されない限り、課題の解決法は得られないところ、プロパンガスを民生用燃料として利用するようになってからの歴史が浅いため、関連技術の研究発展も遅れており、関連資料も少なく、引用例にも、このような欠陥に関連する記載はなく、上記の課題は開示されていない。

このように、従来の液化石油ガス供給装置の欠陥に関する資料はなく、引用例考案においても、本願考案が解決しようとする課題である従来の液化石油ガス供給装置の欠陥についての認識はないから、その解決法の発想はありえず、引用例考案の構成から、本願考案が上記欠陥を解決するために採用した構成、すなわち、従来の液化石油ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、低圧側にガス感圧装置を設け、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に連動するように高圧ガス遮断弁と感圧装置とを連結した構成、を想到することは当業者にとってきわめて容易であるとは到底いえない。

そして、本願考案は、この構成を採用することによって、従来の液化石油ガス供給装置の欠陥を根本的に解消するという顕著な作用効果を奏するものである。

5  以上のとおりであるから、審決が、本願考案の構成に想到することは当業者にとってきわめて容易であり、引用例考案から予測することができないような格別の効果を奏することができたものとも認められないと判断したことは、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  審決は、本願考案と引用例考案との相違点を、「ガス供給装置を、本願考案においては、低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた液化石油ガス供給装置に応用したものであるのに対し、引用例に記載されたものは、半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置に応用したものである点」(審決書5頁12~19行)と認定している。

そして、本願考案の要旨にいう「欠陥」とは、作動ガス圧が元栓類などの気密検定基準より高いため、ガスの放散を招く可能性のある安全弁を設けていることをいうのであるから、このことは、上記相違点の「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた」ことの中に含まれている。

また、審決は、引用例に、「ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、更に、低圧側にガス感圧装置を設け、そのガス感圧装置と高圧ガス遮断弁が連動するように連結した構造」(審決書5頁5~8行)が記載されていると認定している。

したがって、審決は、原告の主張する本願考案の本質を誤解したことはなく、原告の主張は失当である。

2  従来の安全弁がガスを放散するようになる作動ガス圧が水柱560~840mm(700±140mm)であるのに対して、ガス栓などの気密検定基準が水柱420mm以上になっていることは、液化石油ガス供給装置の技術分野においては常識であり、特開昭51-22297号公報(乙第1号証)にも記載されているように、従来の液化石油ガス供給装置においては供用期間中に導管、ガス栓等の気密性劣化に伴って、これらから安全弁が作動する圧力よりも低圧でガスが漏洩するという問題があることは、本願出願前周知のことである(同号証9頁右上欄5~18行)。

また、一般に液化石油ガスボンベに接続されている管路を異常高圧ガスから保護する目的の安全弁を減圧弁の下流側に設けるのが常識である。そして、安全弁は、高圧ガスを大気に安全に放出することによって、その管路を異常高圧ガスから保護するものであるから、これが作動するときは、液化石油ガスが大気に放出されることになり、このガスの放散による事故の発生、ガスの不経済という事態が発生する可能性があることも明らかである。

引用例考案は、減圧弁の作動不良に起因して二次側圧力(低圧側)が異常上昇して、高圧ガスが漏洩することを未然に防止するために、減圧弁の一次側に遮断弁を設けることが記載されているのであるから、引用例考案は、高圧ガスが漏洩することによる危険を回避するという課題を有するものであり、その解決手段を開示したものである。

したがって、上記課題の解決を開示する引用例考案の半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置の構成を、同様の課題を有する従来の液化石油ガス供給装置に単に適用して、本願考案の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得た程度のものである。

よって、審決の相違点についての判断に誤りはない。

第5  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する。書証の成立についてはいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願考案の要旨が、審決認定のとおり、補正された明細書の実用新案登録請求の範囲記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。ただし、本願明細書の考案の詳細な説明及び図面(甲第2、第3号証)によれば、その登録請求の範囲の「減圧弁2b」との記載は、「減圧弁2a」の誤記であることが明らかであるので、以下、「減圧弁2a」と訂正されたものをもって、本願考案の要旨と認める。

本願考案と引用例考案とが、審決認定のとおり、「ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、更に、低圧側にガス感圧装置を設け、そのガス感圧装置と高圧ガス遮断弁が連動するように連結した構造のガス供給装置」(審決書5頁5~8行)である点で一致すること、両者の相違点が、「前記ガス供給装置を、本願考案においては、低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた液化石油ガス供給装置に応用したものであるのに対し、引用例に記載されたものは、半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置に応用したものである点」(同5頁12~19行)にあることは、原告も認めるところであり、当事者間に争いがない。

そして、本願考案の要旨における「欠陥を具有する」とは、本願明細書(甲第2、第3号証)の記載に照らせば、「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた・・・従来の液化石油ガス供給装置」においては、「低圧側のガス器具の各種継目や嵌合部分などが経年劣化して、その気密が安全弁2cの最高作動ガス圧水柱840mmの前後以下まで低下した場合、劣化した減圧弁2aと弁座2bの間から高圧ガスが低圧側に漏洩しても、安全弁2cから過剰ガスが大気中に放散されるか、屋内の閉められている元栓や器具栓その他の低気密部分から漏洩するようになると、低圧側のガス圧はそれ以上に高くならないので、弁座に対する減圧弁の圧接力もそれ以上に強くならないため、減圧弁からの高圧ガス漏洩を遮断できなくなる。即ち、当初に意図した減圧弁から高圧ガスが漏洩した場合、低圧側のガス圧上昇に伴い弁座に対する減圧弁の圧接力が強くなる筈の機能が、安全弁の作動ガス圧や低圧側ガス器具全体の気密が低すぎるために働かなくなり、閉めてある元栓や器具栓その他から高圧ガスが漏洩して事故原因になっており、それは致命的欠陥になっている。」(甲第2号証明細書5頁3~20行)ことを意味すること、すなわち、安全弁の作動ガス圧より低く定められている従来の気密検定基準に基づき製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などを設けた液化石油ガス供給装置においては、経年劣化により気密が低下し、減圧弁から高圧ガスが漏洩した場合に、低圧側の元栓類などの気密が低すぎるために、そこから高圧ガスが漏洩してしまって、低圧側のガス圧上昇に伴い高圧ガス漏洩を遮断する減圧弁の機能が働かなくなり、閉めてある元栓類などから高圧ガスが漏洩して事故原因になることをもって、「欠陥を具有する」としているものと認められる。

そして、本願考案が、従来の石油ガス供給装置が具有するこの「欠陥」を解消することを課題として、その解決手段として、本願考案の要旨の後半に示された「調整器2の減圧弁2aを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造」を採用したものであることは、本願明細書(甲第2、第3号証)の全記載から、明らかである。

2  一方、引用例(甲第4号証)に、審決認定のとおり(審決書2頁17行~4頁13行)、「使用するガスの減圧弁二次側からの出流れ時の危険性を除去する減圧弁二次側に圧力センサーを設け、減圧弁出流れ時に自動的に一次側を遮断する緊急遮断弁を設けた事を特徴としたガス集合装置」を要旨とする考案が図面を引用して記載されており、これにつき、以下のとおり記載されていることは、当事者間に争いがない。

「本考案は半導体ウエハーの拡散における種々の膜形成に使用するガス集合装置の改良に関するものである。

従来より膜形成には多種の高圧ガスが使用されており、安全面から種々の対策がなされている。

しかし、ガス集合装置には次の如き欠点があった。

使用する高圧ガスを一般的には減圧弁にて圧力を数kg/cm2に落として流量を設定して使用している。しかし減圧弁が出流れした場合には二次側圧力が減圧されず一次側圧力がもろにかかる可能性があり、減圧弁二次側の破裂板が破裂し、ガスが噴出する危険性がある。使用している高圧ガスが自然性(「自燃性」の誤記と認められる。)、毒性ガスの場合には火災の発生、作業者のガス中毒等が起りかねなかった。

本考案は上記欠点を除去したものであり、特に減圧弁が出流れした場合の安全性を高めたガス集合装置を提供するものである。」(引用例明細書1頁11行~2頁10行)、

「二次圧力より少し高めに設定した圧力センサー8と連動する緊急遮断弁7を設ける事により、減圧弁6の出流れが起った場合には圧力センサー8が、異常圧力を検出し動作すると同時に緊急遮断弁7を閉とするのでガスの噴出が防止でき、安全性を高めるという良好な結果が得られる。」(同3頁17行~4頁3行)」

上記記載によれば、引用例考案は、従来の半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置においては、減圧弁6が出流れを起こすと、高圧ガスが減圧されないで低圧側にかかり、安全装置が破裂してガスが噴出し、火災の発生などの危険が生ずるという欠陥があったことを認識し、これを回避するという課題の下で、その解決手段として、減圧弁6の高圧側すなわち一次側圧力の働く側に緊急遮断弁7を設け、減圧弁6の低圧側すなわち二次側圧力の働く側に圧力センサー8を設け、圧力センサー8が異常圧力を検出した場合、緊急遮断弁7が閉じられるようにした構成を開示したものであると認められる。

3  以上の事実によると、引用例考案は、それが従来の「半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置」に係る欠陥を解消するための考案であるのに対し、本願考案が、「欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置」の欠陥を解消するための考案であるとの点で相違するけれども、本願考案と同じ課題を有するものであり、その解決手段として、審決認定の前示一致点に係る構成、すなわち、「ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、更に、低圧側にガス感圧装置を設け、そのガス感圧装置と高圧ガス遮断弁が連動するように連結した構造」を採用したものであることが、明らかである。

そうすると、審決は、本願考案の本質を理解して、引用例考案との一致点、相違点を認定し、これにつき判断しているということができ、この点に、原告主張の誤りはないといわなければならない。

原告は、引用例考案には、本願考案の「調整器2の減圧弁2aを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造」との構成の記載はないと主張する。

しかしながら、審決の一致点の認定は当事者間に争いがなく、また、審決認定の「本願考案の液化石油ガス供給装置も引用例に記載された考案のガス集合装置も共に、減圧弁を備えた高圧ガスの供給装置に関するものであり、本願考案の『調整器2の減圧弁2a』、『高圧ガス遮断弁6』、『ガス感圧装置7』はそれぞれ引用例に記載の考案の『減圧弁6』、『緊急遮断弁7』、『圧力センサー8』に対応する」(審決書4頁17行~5頁3行)ことは、原告も認めるところであるから、引用例には、「減圧弁6」(本願考案の「調整器2の減圧弁2a」)を境にした高圧側に「緊急遮断弁7」(本願考案の「高圧ガス遮断弁6」)を設け、さらに、低圧側に「圧力センサー8」(本願考案の「ガス感圧装置7」)、その「圧力センサー8」(本願考案の「ガス感圧装置7」)と「緊急遮断弁7」(本願考案の「高圧ガス遮断弁6」)が連動するように連結した構造が記載されていると認められる。

したがって、引用例考案は、「調整器2の減圧弁2aを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造」を備えており、これが、審決認定の一致点に係る構成であることは明らかであるので、原告の上記主張は失当である。

4  そして、本願明細書(甲第2、第3号証)の「第1図の調整器2構造のように、減圧弁2aの高圧ガス遮断力は低圧側のガス圧によつて生ずる。」(甲第2号証明細書3頁16~17行)、「調整器減圧弁2aと弁座間も経年劣化すると、ガス使用停止中に減圧弁と弁座との間から高圧ガスが低圧側に漏洩するようになることも当業者に自明周知のことであり、そのために、調整器内に過剰ガス放散用の安全弁2cが設けられている。」(同4頁12~17行)との記載及び従来の液化石油ガス供給装置の構造図を示す第1図(同号証図面及び甲第3号証補正の内容)によれば、本願考案の要旨に示す「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置」において、減圧弁(調整器減圧弁2a)の作動不良のために減圧弁から高圧ガスが低圧側に漏洩する欠陥に対処するために、その解決手段を考えることは、本願出願前周知の課題であったと認められる。

したがって、この周知の課題の解決のために、減圧弁の作動不良により高圧ガスが減圧されないで漏洩することによる危険を回避するという課題の解決を開示する引用例考案の構成を採用し、本願考案の構成とすることは、当業者がきわめて容易に想到できた程度のものというべきである。

そして、本願考案が、引用例考案から予測することができないような格別の効果を奏することができたものとも認められない。

したがって、審決の相違点についての判断に誤りはないといわなければならない。

5  以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判第21358号

審決

東京都東村山市廻田町3-19-13

請求人 蒔田義夫

昭和61年実用新案登録願第 20978号「液化石油ガス供給装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年8月21日出願公開、実開昭62-133099)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1.手続の経緯・本願考案の要旨

本願は、昭和61年2月18日の出願であって、その考案の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガズ供給装置の調整器2の減圧弁2bを境にした高圧側に高圧ガス遮断弁6を設け、更に、低圧側にガス感圧装置7を設け、そのガス感圧装置7と高圧ガス遮断弁6が連動するように連結した構造の液化石油ガス供給装置。」

2. 引用例

これに対して、原査定の拒絶理由に引用された実願昭58-46173号(実開昭59-151435号公報)のマイクロフイルム(昭和59年10月11日特許庁発行)には、

「使用するガスの減圧弁二次側からの出流れ時の危険性を除去する減圧弁二次側に圧力センサーを設け、減圧弁出流れ時に自動的に一次側を遮断する緊急遮断弁を設けた事を特徴としたガス集合装置。」

を要旨とする考案が図面を引用して記載されており、更に、

「本考案は、半導体ウエハーの拡散における種々の膜形成に使用するガス集合装置の改良に関するものである。

従来より膜形成には多種の高圧ガスが使用されており、安全面から種々の対策がなされている。しかし、ガス集合装置には次の如き欠点があった。

使用する高圧ガスを一般的には減圧弁にて圧力を数kg/cm2に落として流量を設定し使用している。しかし減圧弁が出流れした場合には二次側圧力が減圧されず一次側圧力がもろにかかる可能性があり、減圧弁二次側の破裂板が破裂し、ガスが噴出する危険性がある。使用している高圧ガスが自然性(「自燃性」の誤記と認められる。)、毒性ガスの場合には火災の発生、作業者のガス中毒等が起りかねなかった。

本考案は上記欠点を除去したものであり、特に減圧弁が出流れした場合の安全性を高めたガス集合装置を提供するものである。」(第1頁第11行~第2頁第10行)、

「二次圧力より少し高めに設定した圧力センサー8と連動する緊急遮断弁7を設ける事により、減圧弁6の出流れが起った場合には圧力センサー8が、異常圧力を検出し動作すると同時に緊急遮断弁7を閉とするのでガスの噴出が防止でき、安全性を高めるという良好な結果が得られる。」(第3頁第17行~第4頁第3行)

とも記載されている。

3.対比

そこで、本願考案と引用例に記載された考案とを比較すると、本願考案の液化石油ガス供給装置も引用例に記載された考案のガス集合装置も共に、減圧弁を備えた高圧ガスの供給装置に関するものであり、本願考案の「調整器2の減圧弁2b」、

「高圧ガス遮断弁6」、「ガス感圧装置7」はそれぞれ引用例に記載の考案の「減圧弁6」、「緊急遮断弁7」、「圧力センサー8」に対応するから、両者は、

「ガス供給装置の減圧弁を境にした高圧側に高圧ガス遮断弁を設け、更に、低圧側にガス感圧装置を設け、そのガス感圧装置と高圧ガス遮断弁が連動するように連結した構造のガス供給装置」

である点で一致し、次の点において相違するものと認める。

相違点

前記ガス供給装置を、本願考案においては、低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた液化石油ガス供給装置に応用したものであるのに対し、引用例に記載されたものは、半導体ウエハーの拡散による膜形成に使用されるガス供給装置に応用したものである点。

4.当審の判断

この相違点について検討すると、引用例に記載された考案は、減圧弁の高圧ガス漏洩に対する遮断性能が低下するという危険性があることを前提にして、減圧弁がガスの出流れを起こした場合の安全性を高めるために、減圧弁に、圧力センサーと緊急遮断弁を組み合わせたガス供給装置に関するものであり、このガス供給装置を、引用例に記載されているような減圧弁を具備するガス集合装置に応用するか、同様に減圧弁を具備し、減圧弁に同様の危険性があることを十分に予測することができたものと認められる液化石油ガス供給装置に応用するかは、当業者が適宜に選択することができたものと認められる。

そして、本願考案が、引用例に記載された考案から予測することができないような格別の効果を奏することができたものとも認められない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願考案は、引用例に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年11月2日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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